短編随筆『懐古録』

秋ももうすぐ終わろうとし、冬を感じさせる冷たい風が吹きつけるようになった頃


僕は出先からの帰り道をわざわざ遠回りして中学高校6年間通い続けた通学路で帰った


中目黒から渋谷へ

およそ15分程度の帰り道






僕は今でも東横線から見える中目黒の夜景が大好きだ

電車から見える良くわからん江戸っぽい雰囲気のキャバクラや赤提灯が建ち並ぶ細露地から、昔よく通った友達の家に続く道へ風景が移りゆく

ここの夜景はいつも変わらない妖艶さで感傷的な心を包み込み、ぼんやりとした浮遊感を与えてくれた




代官山を飛ばし、工事をして夜景の無くなった地下にある渋谷ホーム、昔は昔で廃墟ビルの雑踏みたいなのしか見えなかったが


渋谷の街は常に新しくなっていて、今も新しくなり続ける



渋谷はどこか工事してる時にどこか完成し、また壊れて工事してその時どこかがまた完成して、どこかで一度偉い人がこれが完成した渋谷ですって言ってくれないものかと儚い溜め息をついた


きっとまだ高校生の頃ならばこの進化し続ける姿の美しさや面白さを見つけ懐かしむような事など無かった

新しいものを美しいものでなく新しいものとしか見れなくなった僕はきっとノスタルジーに居場所を求め続けているのだろう






僕は渋谷で下車した



2年前歩いた昔の道を通ろうにも既に無い事に気がついた




ヒカリエの地下から地上に出ると冷たい風が僕の全身を包んだ、夕陽が煌々と渋谷に並ぶビルを赤く染めて僕の背後に長い影を落としていた





その景色を見て途端に僕は酷い孤独感に襲われた




そして新しく工事されて綺麗になった道を歩き山手線を目指した、高架下でなく自然と明るい道を選び、一歩歩く事に冷たく吹きつけるビル風と懐かしい夕陽の温かさが押し寄せてきた



僕は一瞬立ち止まると大きく身震いをした、

すると、これまで吹きつけていた冷たいビル風も懐かしい温かさももうそこには無かった




「さよなら18の僕」




路地裏から吹き抜ける冷たい風とその言葉だけが晩秋の夕陽の輝きと共に何処かへ溶けていった