短編小説「羽化前夜」

大学三年の冬を迎えた。

とにかく自立したくてなりふり構わず地元を飛び出してから三年も経つのかと思うとあまりにも時の流れは早くて実感が湧かなかった。

地元の高校では周りの奴らと馬鹿ばかりやっていたが、なんか自分の将来が見えなくてとりあえず飛び出してきた。

 

そのよくつるんでいたバカな奴らの話をするとバカっていうのは四人いて、そいつらと塀をよじ登って学校を逃げたり、誰が多く赤点とれるかとかしょっちゅうゲームセンターに行っては夜中まで遊び惚けて後で見つかっては先生によくしばかれてた。

そいつらに最初ここを出て一人暮らしするなんて言ったら誰も信じなくて「やめとけ」と散々止められたが、「まぁ何とかなるだろ」と気軽に笑って誤魔化した。

実際のところ親の手伝いをしていたことが幸いしてか最低限の料理や掃除洗濯は出来たので何とかなっている。

そして成績もそれなり、サークルでのキャラもそれなり、友人も少なくないので何不自由ない生活を送っていた。高校時代のあの破天荒な生活など今では本当にやっていたのかと自分でも信じられなくなるくらい落ち着いた生活だった。

 

 

十二月になると、地元の友達が三年ぶりに五人で遊ぼうと招集をかけた。

冬休みがうちの大学は長いから帰省して久々にあいつらに成長して落ち着いた自分を見せてやりたかった。

 

俺たちは少し離れたでかい遊園地に一泊泊りで遊びに行くことになった。

当日五人の集合場所に来たら、案の定他の奴らは全員遅刻してきて皆俺がイメージよりもしっかりした服装で定時に集合したことに驚いていた。

 

そして移動中思い出話を沢山話した後に自分の近況について話し合った。勿論俺はそこで自分がいかに真面目で落ち着いた生活を送っているか自慢げに語った。皆集合したあたりから察していたのか、そこまで話に関心は持たれずぽつぽつと一人ずつ話始めた。

 

一人は資格試験をこの前受けて結果待ちだったり、一人はもう就職が決まって勤務地の希望を考えていたり、また一人は何も考えていない奴もいて様々だった。

でも皆昔と、どこか違うというか地に足のついたそしてどこか寂しさともとれるような儚い空気が五人の間に漂っていた。

 

「来年資格取って就活始まってそれで仕事先が決まったらもういよいよ遊べないのかな」俺らのうちの一番天然な奴が言った。

俺はすかさず「そんなことねぇよ、土日だってあるしそんなすぐに会えないけど別に予定合わせればいつでも会えるって」と励ますような誤魔化すようなことを言った。

「俺仕事先は地方だけど長期休みは必ず戻るから呼んでくれたらいつでも行くわ」と他の奴も俺に続いて言った。

結局その場はいつでも遊べるということで纏まったが、何となく皆心のどこかで大人になるその宿命のようなものを察したようだった。

 

閉園まで遊び尽くした後、その日の夜は宿で酒を飲んで温泉に入って卓球をしてと久々に満喫した時間を過ごして深夜部屋でトランプをしていた。

先に寝るといったやつらは放っておいて残った三人でグダグダとやることもなくてババ抜きをしていた。

俺が「皆変わってないだろって思ってたけどやっぱり少しずつ変わって行くんだな」と言うと、他の奴が「まぁそりゃそうだろ、今日お前を見たとき最初は取り繕ってるだけだと思ったけどやっぱりうちら落ち着いたよな、どこか大人になったというか」と言う。

それを聞いて俺は「まだまだ子供である自分もわすれてねぇけどな」というと、フッと二人が笑って「あぁ、そうだな」と見透かしたことを言った。それが俺は納得がいかず一人で一体どういう意味の言葉なのか遊び終わった後も布団の中で考えていた。

 

 

次の日も遊園地で遊んだ後その場で計画して近くの湖に行くことにした。

湖に行ってから何をするとかは考えていなくて、とりあえず湖の対抗策がバカでかいただの平地に行く事だったからこっちになった。

 

湖に着くと近くの山にロープウェイがあって丁度その日の最終便が出発するところだった。とにかくそれに飛び乗って山の頂上に行き景色を堪能していると下山道のような分かれ道が頂上から戻る道のりの途中にあった。

でもそれは明らかに獣道で日も沈みかけていたから今の自分たちが歩くにはあまりにも軽装過ぎた。

俺が冗談交じりにここから下ろう見たいなことをいうと、まさかと反対する奴もいたが一人だけ本当に降りようとするやつがいたから逆に焦ってしまった。

その時降りようとした奴が「高校のときなら俺たち本当に降りてただろ!あの頃のバカ共はどこ行ったんだよ!!」と言い、少し昔を想像して考えた。夜の山をスニーカーのと普段着で明かりもない中で下山するなんて明らかに現実的な提案じゃないから普段なら笑い飛ばす所だった。

でも確かに無茶だと分かっていてもそこに飛び込む愚かさや行動力があった時代なら本当に下ったかもしれないと俺は考えてしまった。

その時そこにいた皆が俺と同じことを思ったのか、本当に一瞬だけだったが皆の足が止まり互いの目線が交差した。

その時向こうからロープウェイの発射が近いことを知らせるベルが鳴った、結局自分達はその獣道は流石に下れないと我に戻り元の道に戻った。

 

そのまま帰路につくと皆爆睡して最寄り駅に着くまで会話は無かった。

分かれ際、またどうせすぐに会えるといいそれぞれが違う帰り道に差し掛かり自分たちが歩く別々の方向に身体を向けると、遊びきった達成感と皆にまた会えた嬉しさで一杯だった。

でも感じた夜風の肌寒さが一人で歩く夜道を広く長く感じさせた。

 

 

 

※この記事はDCRC2020アドベントカレンダー13日目となります

どうも「ぬー」と申します。

 これが私にとって最後のアドベントカレンダーになるのですかねぇ、寂しいですね

出会いがあれば別れがあって、でも別に一回しか出会えないなんて誰が決めたわけでもありません。また会える時までkissしてgoodbye.